iPodでクラシック


 以前に触れたように、年代物のステレオが、というかアンプがついにイカレてしまった。で、新しいアンプを買うべきところを、しばらく悩んだ末に買ってしまったiPod classic。正統派クラシック愛好家からすると、何を馬鹿なということになるかもしれないが、当面のリスニング装置として、ステレオを捨ててiPodを取ったということになる。なぜか? iPodでクラシックを聞くことに、ある種の心地よさというか、可能性を感じ始めてしまったからである。
 もちろん、iPodでの音楽鑑賞を、オーディオ装置でのそれと同日に論じることなどできないことは重々承知している。ステレオのスピーカーからは、一種の圧力として音が押し寄せ、それは耳だけでなく体の皮膚全体で感受されている。それに対して、iPodのイヤホンは皮膚どころか薄い鼓膜2枚を震わせるに過ぎない。コンサート会場で人を取り巻く音の100分の1ほどをステレオが再現しているとするなら、iPodが再現しているのは、音の圧力という面では、そのさらに100分の1ほどに過ぎないだろう。iPodで聴く音楽からは、質量というか熱量というか、演奏の手触り・息づかいのようなものが削ぎ落とされている。それが伝えるのは、極論するなら音楽の記号の如きものに過ぎない。
 ならばなぜiPodを選ぶのか? それでもやはり心地いいからなのである。好きな時にひっそりと音楽が聴けるスタイルが心地いいし、その純化され、記号化された音のあり方が心地いい。この聴き方に慣れてしまうと、大層なオーディオセットの前に鎮座して、否応なく周囲に響き渡る大音響で音楽を聴くという行為が、何か滑稽で野蛮なものにも思えてきてしまったから不思議だ。もちろんこれらはすべて早とちりかもしれないし、いずれはその音のあり方に嫌気がさすのかもしれないが、iPodでのクラシック鑑賞を、一種の実験として、もちろん楽しみもしつつ、続けてみるのも面白かろうと考えたわけである。
 このiPod classicの容量は80GBもある。下手なノートパソコンよりも多いから、手持ちの音楽はすっぽり入ってしまうだろうが、とりあえずは室内楽以小の気に入りの演奏を、気が向いたらロスレス圧縮で保存していっている。オーケストラ曲については、音圧が感動のかなりの部分を担っているだろうから、iPodには最も不適な分野かもしれないと、とりあえず敬遠。iPodでたとえばブルックナー交響曲が、ある程度感動的に聴けるかどうかは、今後の大きな研究テーマの一つでもあろう。
 ちなみにイヤホンはPHILIPSのSHE9501を使っている。アマゾンで2000円足らずで買ったものだが、その数倍程度の値段のものに匹敵する音、というのが専らの評判。少なくとも付属のイヤホンよりは数倍いい。ついでにケースはTUNEWEARのPRIE Rawhide 5G Tan Hunter Leather Cross stitch。これもアマゾンで最後の1点をゲット。iPod classicは柄が大きくて、持ち前のシンプルなデザインがどうしても間が抜けて見えるので、革ケースで包んでやるのが一番。革の素材感もデザインも気に入っている。