明神平


 28日は1年ぶりに明神平へ。今年の登山道の雪は深く、途中から早々とスノーシューをつけてガスと寒風の平に登り上げました。そのまま前山の大斜面をめざすと、霧氷を全身にまとったブナが次々にガスの中から立ち現われて、夢幻の世界をさまよっているような感覚にとらわれます。快晴の日の明神平は、青空に純白の霧氷が輝き、登山者に至福の時間を与えてくれますが、こんな天候の日の明神平にも得難い喜びがあります。自分の存在が風景に溶け込んでしまうような、大袈裟にいえば究極の「心物一如」の感覚と言えばいいでしょうか。

 もっとも、心は風景に溶け込んでいても、身体はそこにあって凍え切っていますから、さすがに今日の昼食は、ツェルトを張ってその中にもぐり込んで摂ることに。風の音を聞きながら湯を沸かしていると、ようやく指先に感覚が戻ってきました。食後は気合を入れ直して寒風の稜線に上り、三塚分岐から右に振りつつブナの尾根をゆっくり下っていきます。右手には奥山谷源頭の谷をはさんで、ガスの中にブナの古木林がまるで太古の風景さながらに見え隠れしていますが、今日はさすがにそこまで足を伸ばす気になれません。こちらの尾根にもブナ・ミズナラの古木が多く、霧氷の衣で一層迫力を増した幹々の間、繊細な純白の天蓋を広げる枝々の下を、スノーシューに乗って夢見るように下って行きます。こんな時間があるから、厳冬の明神平には毎年一度は訪れずにいられません。

 心当てに下り着いた明神平の水場の谷は、あれ、少し印象が変わっています。よく見ると、雪の下にはかなりの数の倒木が横たわっている様子。昨秋の台風の爪痕でしょうか、古木が倒されて空が大きく開けている場所があります。この後、この気持ちのいい谷がどう変わっていくのか、少し心配しつつ明神平に登り返し、帰路につきました。