山を眺めに

 4月に山で足を痛めて以来、ずっと登山から遠ざかっています。そろそろと思っているうちに高山には雪が来て、もう近づける山ではなくなってしまいました。せめて近くから輝く峰々を眺めて、今年の空白を埋めようと伊那谷へ出かけました。

 まずは伊那谷南アルプスの間に横たわる伊那山地の一峰、陣馬形山に登りました。といっても自動車で。頂上にキャンプ場があってしっかり舗装された道が達しています。噂通りのすばらしい眺め。

 日が傾き、伊那谷には夕靄が流れ始めて、視程はあまりクリアではありませんが、新雪中央アルプスの稜線が目をとらえて離しません。正面には空木岳、右手には宝剣岳の尖塔がくっきり。長い池山尾根の登りに堪えてたどり着いた山頂が、とても優しかった空木岳。また登る機会はあるでしょうか。

 視界を180度転じると、今度は南アルプスの大パノラマ。

 ちょっと遠いものの、仙丈ヶ岳から聖岳まで南アの3000m峰が一つ一つ指摘できます。この天末に連なる峰々の神々しいまでの遙けさは、写真ではとても伝えられそうにありません(一応、各画像をクリックして、さらに「オリジナルサイズを表示」をクリックすれば、横1280ピクセルの画像が表示できます)。どれも一度は登った山ですが、かといってそれで山が自分に近しくなったわけではなく、仰ぎ見る度にまた畏怖と憧れをかきたてられる、それが山という存在だと感じます。

 翌日は鹿嶺高原に登りました。こちらは南アの前衛峰と呼べる位置にある山で、やはり上にキャンプ場があり、よってまた自動車登山です。人けのないキャンプ場から展望台まで椅子とテーブルを持って上って、山を眺めながらお弁当を頂きます。

 さすがにここまで近づくと昨日は遠かった仙丈ヶ岳が目の前に迫ります。その左には甲斐駒ヶ岳も天を衝いています。高曇りで撮影に適した空の色ではありませんが、山はくっきりと見えています。3年前の秋、ウラシマツツジの紅に染まっていた小仙丈カールも、今は岩と雪だけの装いです。

 展望櫓があるので上ってみると、全周の眺めが開けて思わず声を上げずにはいられません。南アから目を転じると、広々した高原の向うに連なるのは中央アルプスと乗鞍、そして北アルプス。目を凝らせば、穂高・槍から白馬まですべて正しく同定できそうです。雪のない季節ではなかなかこうは行きません。この鮮烈、雄大、清浄…、峰に雪が来ると山国の風景は格段に美しくなります。