弥山・八経ヶ岳


 梅雨入り間近の好天の6月第一日曜は、3年続けて弥山川の岩魚詣でに。今回は趣向を変えて行者還トンネル東口から登ってみる。いつも車でいっぱいの西口に比べて、遠回りになるせいで駐車しているのは他に2台だけと不人気のコース。しばらく樹林をトラバースして尾根に乗り、ジグザグを切りながら稜線に向けて高度を上げる。オーバーユースで荒れている西口からの道に比べてずっと歩きやすい登りだ。
 稜線が近づくと満開のシロヤシオが現われて顔がほころぶ。ブナも一貫して多く、北向き斜面で暗い西口コースよりも大いに気に入るが、稜線に出て一ノ垰で奥駈道に合流すると、それどころではない美しい世界が展開し始めた。刈り込まれた芝生のような丈の低い笹が一面に広がり、白いブナの幹が亭々と連なる下を、一筋細い踏み跡が続いている。何という整いと伸びやかさ! まるで神様が差配した天然の公園だ。一ノ垰から小谷林道への尾根を分けて1516m峰の先までそんな美しい風景がとぎれない。山上ヶ岳から釈迦ヶ岳まで大峰奥駈道の核心部はほぼ一度は歩いているが、わずかに未踏だった部分にこんな珠玉の山域が残っていたとは。
 登山道は1516mピークの北側をトラバースしているが、何の気なく道を外れて稜線伝いに行くと、爽やかに装ったシロヤシオが次々に現われる。しかも右手に眺めが開けたところでは、稲村ヶ岳から山上ヶ岳、大普賢岳までの大峰の雄峰が一望。ピークを越えて前方にはめざす弥山と八経ヶ岳もほどよい距離で望める。あまりに気持ちがいいので、この辺りをあちこち歩いて撮影して終わってもいいかと思ったほどだが、それは三脚を携えてまたの機会にと、1516m峰を下って弥山に向う。
 トンネル西口からの登山道を合わせると、一気に道幅が数倍にも広がって驚かされる。みごとだった笹もすっかり消えてしまう。こうなるとセッセと歩いて頂上をめざす以外にない。遠回りで登ったせいか、いつもよりくたびれて弥山小屋に登りつき、八経ヶ岳から明星ヶ岳を経て弥山川に下る。いつもの大きな淵で水際に腰を下ろして昼食。今年も清流の精は永久禁漁に守られて、つつがなく淵に遊弋し閃いていた。
 ゆっくり岩魚を眺めた後は狼平から弥山に登り返し、トンネル東口へ下る。笹とブナと満開のシロヤシオの山上空間にまた溜息。大峰奥駈道の白眉は人気の山頂よりも行く人の少ないこうした縦走路にあることを再確認した。