和歌山散歩


 先日、身近な名所散策で訪ねた大津がなかなか面白かったので、今度は和歌山にショートトリップ。曲がりくねった阪和道で越えていく府県境の和泉山脈はなかなか深く、かつては苦労して一山越えてたどり着く南海の別天地だったことを感じさせる。
 まず和歌山市立博物館をさらっと見て、意外に充実している図録のバックナンバーに喜んだ後は、南の雑賀崎に向う。紀伊水道に突き出した小さな岬の上が広々した芝生の庭になっている。幕末に黒船監視の番所が設けられていた跡とかで、番所(ばんどこ)庭園と呼ばれて爽快な眺めを誇っている。庭の突端のベンチに座ると、対岸の小島と右手に紀伊水道の眺めがまばゆい。くっきりと四国の島影も横たわる。
 そのまま雑賀崎の海岸線をなぞると昭和30〜40年代に行楽地として栄えた新和歌浦。わずかな旅館だけが今も営業している。宇宙回転温泉のCMが記憶に残る大旅館の廃墟は、一時廃墟マニアのメッカだったようだが、今は取り壊されて消滅している。雑賀崎をぐるっと巡って、その南の基部に伸びる片男波砂州とその内湾が、万葉以来の景勝地和歌浦。地形も景観も悲しいほどに変貌して、昔日の面影はまったくない。
 対岸の名草山の斜面には名刹紀三井寺の堂塔が見上げられる。寂れぎみの門前町に駐車して、楼門をくぐって両側に小さなお堂が続く急な階段を登る。坂の途中には三井の名の起こりとなった湧水のささやかな滝が落ちている。古びた石垣に瑞々しい新緑がよく映る。
 登り切ると高台に本堂を始めとする堂宇が並び、和歌浦の眺めが広がるが、今は市街地がうるさく海景の生彩はまったくない。しかし、かつては和歌浦があってこその紀三井寺の賑わいだったのだろう。三井寺に琵琶湖の眺めが欠かせなかったように。
 和歌山の旧跡巡りはこれで切り上げ、新名所のマリーナシティで海産物を見る。リゾートマンション群と張りぼてヨーロッパ建築はバブルの遺産そのもの。粗末にされた万葉名所と落日の行楽地と急造リゾート。和歌山の印象はちぐはぐだ。ここでも古刹がわずかにかつての光輝を残している。新名物の和歌山ラーメンは美味しかったけどね。