春一番


 せっかく積もった雪が、ジュッと音をたてて融けてしまいそうな暖かさ。ずいぶん風が吹くと思ったら、春一番だったらしい。先日はブナの枝という枝に重々しく発達していた三ノ丸の霧氷も、これでは跡形もなく消えて、今はブナ林も黒々としていることだろう。
 美しい雪景色の無常迅速を思うと、新雪ラッセルと重い荷に苦労しても、やはり登って一泊してきてよかったと思う。山もまた一期一会。あの霧氷の林と雪原と雲と風と光の一日のドラマには、たとえ似た気象条件の日があったとしても、厳密にはもう二度と出会えない。断片のイメージはわずかにSDカードに残って、これから長く心楽しませてくれるにしても。