笑顔測定器

The Five Worst Inventions (Time.com)

『米タイム誌は最新号で、今年最高の発明1〜50位と最低の発明五つを掲載した。最低の発明には「ガスマスクとしても使えるブラジャー」などと並び、オムロン(本社・京都)が開発した笑顔をチェックするシステム「スマイルスキャン」を選んだ。』(asahi.com)
 確かに測定器で笑顔を真剣に訓練している図というのは、ブラックユーモアだよなあ。機械に何もかも委ねたSF的未来社会を先取りしたような、外国人にとってある面クールで、ある面不気味な日本のイメージにピッタリ合致する風景。しかも、日本のサービス業の笑顔への極度のこだわりを知らない外国人には、ますます以て理解し難い発明品だろう。
 海外旅行をしてまず感じるのは店員たちのニコリともしない無愛想さだろうが、逆にいえば日本の店員たちがマニュアル的な丁重さ、笑顔を強要され過ぎているとも言えそうだ。日本人にとって笑顔、とくに社会的な笑顔とは何か。それは心理・文化・社会にわたる大きなテーマだろうが、実は個人的にもやっかいな問題だ。
 というのも、初対面の人に話を聞くという作業をもう長くやってきたからで、その際多くの場合、笑みを顔に貼りつけながらということになる。警戒心を解くため、リラックスさせるため、幾つかの理由が考えられなくもないが、実は計算づくの笑顔というよりも一種の対人恐怖から出たものというのが真実に近い。そんな引きつった笑顔を内心では良しとしないが、もはやコミュニケーションに於ける苦しい作り笑顔は痼疾と化している。こうなると、笑顔学は精神衛生の領域にも及んでくる。
 すなわち作り笑顔を多く必要とする社会は、コミュニケーションに難点をかかえた社会だというのが強引な一般化。社会構造的にまた言語構造的に、対等で自在な言語疎通が可能な社会は、作り笑顔をあまり必要としないだろう。作り笑顔は社会のストレスから生まれて、使い手にさらにストレスを加える。笑顔測定器を笑い飛ばして、真顔のコミュニケーションを取り戻すべきだろう。