氷雨
秋雨と呼ぶには少し遅いし、時雨と呼ぶにはしとしとと一日降り続く様子がそれらしくない冷たい晩秋の雨。標記の氷雨も少し違うように思うが、気象条件上の定義などはなく、雪の季節に近い頃の冷たい雨を指す言葉のようなので一応。
日が落ちていよいよ冷え込んだので、心臓を病みつつも粘って二度目の冬に入ろうとしている老犬が夜のねぐらにしている温室に、初めて暖房を入れてやった。今年は9月10月にしっかり山に登ったせいか、殊のほか秋が長く感じられ、暑さ対策にと買ってきた工業扇を裏庭や温室でブンブン回していた夏の印象はずいぶん遠いのだが、老犬にとってこの16歳の闘病の一年はどんなものとして記憶に残っているのだろうか。
日々の病身の苦しさにもまったく自己(?)を持ち崩すことなく、健康時とほとんど変わらない日常を維持し、人が来れば潤んだ目で一心に尻尾を振る、その驚くべき平静さと健気さを可能にする精神の風景はどんなものなんだろうか。可能ならのぞいてみたい気がするのだが、もちろん叶わない。