モンベル エクスペディションパック65


 夏に買った大型ザックを今頃になって評価する。というのも、疾うにオークションで売り払ってしまったからで、買い手の手前、たとえ読まれないだろうとは分かっていても、売って即酷評というのは憚られ、一応ほとぼりが冷めるのを待っていた次第である。もう書かずにおこうかと思ったが、時々このザックの評価を探しているらしい検索があるようなので、個人的な感想を残しておくことにする。
 一度だけ、8月の終わりの南八ヶ岳幕営で使用したのだが、評価を下すにはそれで十分だった。何が良くなかったか。とにかく重いのである。もちろん絶対重量はこれまでの山行と何ら変わらないはずだが、背負った感覚としての重さ、体にかかる負担が明らかに大きくなった。
 どうもザック全体の剛性が不足しているようで、形が崩れて背中にしなだれかかる感じ。しかも、背中に当たるパッドが材質も面積も貧弱だから、クッションで緩和されずに重みがダイレクトに背中にのしかかる(ついでにショルダーや腰ベルトのパッドも貧弱)。特に登りは前傾姿勢になるので、ズシリと下向きの重量が背・腰を圧する。その分、これまでのザックのように振られることはあまりないのだが、振られるということはザックの重量が背中に集中することなく、空中に分散しているということではないかと思われ、振られるほどにザックが背中で本来の形を保っていることは必要ではないかと思い至った。それにはやはり一定の剛性と一人立ちできる構造が必要だろう。ついでに、剛性不足のせいかどうか、これまで凹み一つなかったチタンコッヘルが、新しいザックになったとたん、中でベコリとへこんでしまったのはショックだった。
 事前に調べたこのザックのウェブでの評判は上々だった。きっと皆さん少々の道具の瑕疵にはびくともしない体力をお持ちなのだろう。しかしぎりぎりの体力でテントを背負っている自分には、小さな欠点が大きな負担になる。ならばもっと慎重に選ぶべきだったのだが、最初にあてずっぽうで選んだザックがそうだったので、ザックはとりどりあれど、どれも一定レベルはクリアしているのだろうと思い込んで、細々と吟味することを怠ったのがいけなかった。その一定レベルというのが、自分の場合非力なせいでかなり高レベルである必要があったわけで、このザックとて強力な人たちにとっては、また使うシチュエーションによっては、値段は安し、容量十分、その上便利な機能もあって、きっと有力な選択肢となることだろう。
 さて、一度使ったきりのザックを涙を飲んで6割ほどの金額で手放して、野球でいえば失敗したセットアッパーに代えて、もはやクローザーになってくれることを期待して選んだのは、ドイターのエアコンタクト55+10であった。ドイターはdeuterと書きドイツメーカーである。このメーカーは主に冬の日帰り、時たまは思い切り切り詰めたテント山行で使っている丈夫な40リットルザックによって既に信頼が厚いので、「細々と吟味」などといいつつ、結局、実物を背負いもせずネットショッピングで買ってしまったのは、またぞろ懲りない輩というしかない。少し容量が小さいのは、本来は一つ大きい65+10をねらっていたのだが、よく売れているようで色の選択肢がなく、また余裕のあり過ぎるザックはかえって中で荷物があっちこっちして良くないと今回の件で学んだので、ギリギリ一杯と思われるサイズに抑えてみることにした。当然その方が行動は楽になるしね。
 前回の南ア崩れの金峰山で日帰りの軽い荷を背負っただけだが、十二分に厚い肩・背・腰のパッドに隔てられて、ザック本体はしっかり体と独立を保っている様子で、重荷を入れればいかにも振られそうな感じだ。すなわち、今度は少なくとも子泣き爺状態にはならないだろう。雨蓋のポケットが小さめなのが、小物も多いテント泊ではつらいが、やり繰りで何とか凌げなくはない。本格的な評価は晩秋の鈴鹿にでも担いで行ってじっくりと。