燕岳

 土曜・日曜は久々に自分としてはチャレンジングな山登り、南北アルプスの日帰り登山に出かけた。といっても、一般コースを登って下りるだけだから、技術的には難しいことはなく、少しのスピードと持久力勝負のプラン。最近、山の回数が減っているが、まだまだ頑張れるところをここらで確認しておこうという次第。もちろんそろそろ盛りの紅葉への期待もある。
 南北アルプスで頑張れば日帰りできる山は幾つもあるが、両者間の移動を短くするにはと選んだのが燕岳と鳳凰三山。両方ともフォッサマグナの西の縁に聳える山で、この大地溝帯には高速が通じているから、登山口間の移動は容易。両者とも両アルプスの入門の山というイメージがあるから気は楽だ。
 まずは北から。金曜の夜、もちろん日付けを越えて豊科インターを下りて、中房温泉へ。さすがに登山口は車で埋まり、同じく車中泊の人も多い。翌日は少しゆっくりめに起きて7時出発。中房温泉下の登山口には立派な立ち寄り湯ができている。
 取り着いた合戦尾根は急登で有名で、確かに尾根自体の傾斜は急だが、登山道がジグザグに傾斜を殺してつけられているので、意外に登りやすい。ただ、問題は人の多さ。特に前半は団体さんに前をふさがれることが多く、なかなか先に行かせてくれないグループもあって、少しいらつきながら登る。
 しかし後半は山慣れた単独や少人数グループが多くなってスムーズに歩ける。合戦小屋前後からは紅葉が現われ始め、秋山気分が盛り上がる。特に合戦ノ頭から先のなだらかな尾根コースは秋色の洪水だ。前途は残念ながらガスで覆われているが、感嘆の声がそこここで上る。「何年かぶり」という声も聞こえていたが、そういえば今年もまだ台風の上陸はなかったな。
 ちょうど3時間で稜線上の燕山荘。さすがに最後は膝の辺りの筋肉がぴくぴく痙攣しかけ。ここで一気に表銀座裏銀座方面の眺望が開けるところだが、ガスが多くランドマークの槍ヶ岳も隠れている。間近の燕岳も見え隠れしているから残念ながら最上の登山日和とはいえない。そのせいか、小屋前には家族らしい数羽の雷鳥が姿を現わして、登山者の被写体になっている。近くで猿を見たという声も。
 小屋前のベンチで軽く補給してから燕山頂へ出発。角のとれた花崗岩の岩塔がモニュメントのように聳えるなかを、白い砂をザクザク踏んで歩く気持ちのいい道だ。這い松の緑に混じるダケカンバ・ナナカマドの黄紅葉が彩りを添える。見下ろす東斜面も黄色く染まっている。花崗岩の大きな尖塔になった山頂は眺望絶佳のはずだが、今日は特に南方面の雲が多く、谷をはさんで対岸に双六から野口五郎辺りの連なりと北に東沢岳・餓鬼岳が望めるぐらい。すぐ北隣りの北燕岳の黄葉した東斜面が目を引く。
 花崗岩の山頂を下りて、白砂に腰を下ろして早めの昼食。角の取れた白い大岩といい、そこここにある砂の広場といい、実に人当たりのいいくつろげる山だ。これでピーカンの空があれば最高だったのだがと、うっとおしい雲行きを眺める。山頂手前から姿を見せていた猿もここがお気に入りらしく、登山者のそばをゆっくり横切っていく。最近高山に現れるようになった猿が雷鳥を圧迫していると聞いたことがあるが、どうなのだろう。
 1時間ほどゆっくりしてから北に向けて出発。道は北燕岳の直下から東斜面をトラバースして続いている。左手に花崗岩のきれいな岩峰がいくつも連なる面白い道だ。斜面は草や灌木の黄紅葉で染まり、白い岩峰との対比が爽快。高山植物の夏もいいが、この季節が最高の風景かもしれない。幸い岩峰のバックには青空が広がった。
 その先、稜線を離れて遅くまで雪田になっているらしい、今はチングルマの紅葉と綿毛がめだつ大きなお花畑を抜け、ダケカンバの尾根を紅葉したクロウスゴの甘酸っぱい実をついばみながら下ると、東沢岳との鞍部の東沢乗越。これで今日のメインディッシュは終わり。後は、北アルプスにしては傾斜も道の状態もワイルドな東沢登山道を転げ落ちるように下って、3時過ぎ中房温泉に戻った。ちなみにこの下降路のエアリアマップのコースタイム2時間は、すこしきつ過ぎるのではないか。一般には3時間は見ておきたいところ。
 芋洗い状態が想像できる登山口の風呂はパスして、安曇野まで下りてから汗を流し、翌日の南アへ移動した。
中房温泉から燕岳・東沢乗越周回GPSトレース
燕岳山行アルバム