バレンボイムのモーツァルト・ピアノ協奏曲集


 前半は空梅雨の気配さえあったというのに、いつ明けるとも知れない今年の梅雨。8月までズレ込めば、盛夏は盆までの十日ほどで終ってしまいそう。この週末もうっとおしい空模様だが、ならばドライを効かせた部屋にこもって、すっきり綺麗な音楽に親しむに限る。とでも開き直りたい折から、最近出会った標記のCDは、まさに長梅雨の憂さを忘れさせてくれる一枚(中身は2CD)。
 これまではアシュケナージ内田光子で満足していたモーツァルトの後期コンチェルトだが、バレンボイムの盤が私的スタンダードに躍り出た。若き内田光子は繊細・可憐で、アシュケナージの弾き振りはオーケストラを存分に鳴らして颯爽と流麗だが、バレンボイムは何がいいかというと説明しにくい。オーケストラは超高機能のベルリンフィルだから、音・ニュアンスともにとびきり豊かだが、バレンボイムの指揮と演奏はごくオーソドックスなもののように聞こえる。それでいて実にいいのだから、総合力の勝利とでも呼んでおこうか。悠揚迫らずして美しい王道のモーツァルトがここにある。