風蘭


 今年は風蘭がよく咲いている。風にゆれる純白の花が、夕方になると匂い始める。清々しく高貴な、ありとあらゆる花のなかで最上の香り、とこの季節になると思う。入口の近くに吊るして、通るたびに鼻を近づけずにいられない。
 冬は毎年、無加温の温室に移して冬越しさせてきたのだが、今年は病犬を避寒させたので少し暖房を入れた。花数が増えた理由はそれか、それとも株がようやく充実したからか。ネットには水苔植えで無数の花をつけた大株や寄せ植えの写真があって、あれだけ咲いたらきっと家中が芳香に包まれるだろうと思うが、深山幽谷の蘭にはふさわしくない過剰さだ。清楚な花の姿、そこはかとない香りを楽しむならこれくらいがいい。