ジギタリス

Digitalis purpurea 'Apricot'
 ジギタリスアプリコットが咲いている。長く伸びた花穂の下から咲き上ってきて、今は上の数花だけになった開花の最終段階。高温多湿に弱い種類だが、夏に他の植物の蔭になる場所に地植えしたものや、半日陰に置いた鉢では夏を越して、何年か咲き続けている。このアプリコットはよく栽培される園芸種の一つで、種名はパープレア。ヨーロッパに広く自生し、Foxgloveという英名でも知られる。狐が手袋にする花という発想はなかなか可愛いではないか。この種には色違いの園芸種が幾つもあるから、並べて咲かせたら面白いかもしれない。
 ところで、ジギタリスには庭で喜ばれる花という以外に、もう一つの顔があることを思い出したのは、犬の薬によって。冬以来、心臓にトラブルをかかえて、本人はそんな意識はまったくなさそうだが、闘病生活を送っている16歳の老犬の薬に、最近ジギタリスのシロップが加わったのだ。この植物には強力な強心剤としての効果があるらしく、腹水まで溜まり始めた弱った心臓を元気づける役割をこの花の抽出物(と同じ組成の化学的合成物?)が担っているようだ。
 このように花もよく、薬効にも優れ、結構づくめの花のようだが、ジギタリスにはまた恐ろしい側面もある。その植物体そのものはほとんど毒として働くことを数々の事例が教えているのだ。子どもの遊ぶ庭にジギタリスを植えてはいけない、と言われるのもうなずける。いずれも葉の似たコンフリーと間違えて食べたことによる事故だが、そのコンフリーにも肝障害を起こす毒性があるという話だから、つまるところ、真正な野菜と伝統的な山菜以外の植物をやたらと食べるものではない、というのがこれらの教訓だろうか。