氷ノ山・横行コース

 上々の予報の木曜は山に出奔。今年の寡雪ではかなり奥まで道が開いているのではないかと期待して横行林道を進むが、意外に平家ヶ城休憩所の先でデブリに阻まれる。軽トラが1台。スキー靴の足跡が続き、先行者がいるよう。そういえば去年4月に同じコースで軽トラの山スキーヤーに会ったことを思い出す。同じ人?
 橋を右岸に渡って谷が広がると雪も多くなりスキーを履く。雪は予想よりずっと多く、橋の部分では欄干と同じレベルを歩く。昨夜降ったらしい新雪が数センチ表面を覆い、両側の杉もわずかに雪化粧しているのが清々しい。
 気分よく林道を進み、東屋のある大段ヶ平への分岐で反対方向の左へ。去年ここで出会ったベテラン山スキーヤー氏に、横行谷を源頭まで遡行するルートを勧められたのを思い出したのだ。神大ヒュッテの先のブナ林の登高も捨てがたいが、今日は未知のルートで遊んでみることにする。
 分岐から谷の右岸を進むと、岩壁が現われそこに小さな滝が三本かかる。これが三ツ滝。少し離れた左の滝と真ん中の滝の間の斜面が唯一の登路。スキーを進めると、新雪の下は氷化していて板が滑る。仕方なく板をザックに縛って、靴を蹴り込みながら斜面を登って滝を巻く。アイゼン・ピッケルがほしい状況だが、まさかこんなことを始めるつもりはなかったので持ってない。氷化した雪がそれほど固くないのが救い。
 そのまま右岸をトラバースして行けばまた谷に戻るが、観察すると谷は雪に埋もれて平坦というわけではなく、谷通しに行くのは面倒そう。それならと、左手の傾斜はあるが粠に出くわしそうな様子はない小尾根を登ることにする。谷通しはまた今度。
 新雪の下の固い雪に靴がしっかり蹴り込めるのを頼りに四つんばいになって斜面を登る。結局、登山靴を履こうが山スキー靴を履こうが、こんな登山をやっている。次第に傾斜が緩み、周囲のブナの大木を喜ぶ余裕も生まれる。右手から小谷の広々とした斜面をつめて尾根芯に乗る。
 乗った尾根は高度を上げると、三ノ丸の一つ北のピーク、最近の呼称ではワサビ谷ノ頭から東に下るおなじみの大きな尾根に収斂していく。結末は平凡だったが、三ツ滝からという変わったルートをとった満足感はそれなり。それにこのルートはブナがみごとで、3mを優に越しそうな巨木も何本か。氷ノ山ではやっぱりメジャーは必携。
 右手に氷ノ山本峰のゆったりした姿を望みながら、衰えたブナの古木の多い尾根をワサビ谷ノ頭に登り詰め、そのまま県境稜線コースに入る。昼近くなって雲が増えたが、稜線の左には扇ノ山と青ヶ丸の眺めが雄大。寡雪の年とはいえ、氷ノ山も含めてこれらの山々は、時期相応にまだ雪は多い。麓の雪消は早そうだが。
 氷ノ山本峰を雄大に見上げる一つ南のピークで荷を広げて早めの昼食。見下ろす横行谷源頭の斜面は広々して滑降を誘うよう。谷通しで来ればここに出るはずだった。その斜面を二人の登山者が通過していく。食後はそのトレースを追って山頂へ。休憩中の人に挨拶してから少し斜面を戻り滑降準備。横行谷源頭へ滑り下りてみる。
 日射しが戻って緩んだ新雪は重いが、何とかターンをしながら源頭部に岬状に突き出た小尾根に滑り込んでいく。岬の先端まで滑ってストップ。この斜面にもすばらしいブナ林が広がる。見下す谷は完全に雪に埋もれているが底は狭隘で、もう少し雪の多い年でないと登りルートには適さないのではないか。
 再びシールを貼ってブナを楽しみながら登り返す。振り出しに戻ってシールを剥がし下山開始。古千本・千本杉、二つの天然杉群落を抜け、神大ヒュッテを横目に大屋町避難小屋まで一気に下る。ここは一度泊まってみたい小屋だが、のぞいてみたら煙臭い。一晩過ごしたら喉が痛くなりそう。
 避難小屋の先でコースは急斜面を下って、大段ヶ平への細め尾根に入る。先行者のみごとなシュプールを追って急斜面を滑り、少し登り返して振り向くと、おお、航跡だけは一人前の弧を描いているではないか。ザックにしまい込んだカメラをわざわざ取り出して記念撮影。
 大段ヶ平からの長い横行林道は一貫して傾斜があり、日陰の部分は怖いほどスキーが走る。とぎれだした雪をしつこく繋いで滑り、ここまでと板をザックに縛って歩き始めたらすぐに車が見えた。この冬の氷ノ山で一番中身の濃かった一日。このコースはまだ何回か楽しめそうだ。
■横行渓谷から氷ノ山GPSトレース
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▼ブナ斜面を登り詰める
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▼衰えがめだつワサビ谷ノ頭のブナ林
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▼横行谷を挟んで氷ノ山山頂
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▼扇ノ山と青ヶ丸遠望
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▼広々とした源頭斜面と山頂
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▼山頂とコシキ岩
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▼横行谷源頭風景
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▼横行谷源頭のブナ林1
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▼横行谷源頭のブナ林2
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▼避難小屋下斜面のシュプール
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