「デルス・ウザーラ」

 昨夜BSでやっていた「デルス・ウザーラ」は想像以上にいい映画だった。作られた1975年当時、国内の評判は芳しくなく、あまりに坦々としたといった評が多かったように思う。けれど今見ると、黒澤が何の小細工もなく真っ正面から受けとめているシベリアの映像そのものが感動的だ。当時の評論家たちにそれが格別なものと見えなかったのは、時代の自然に対する意識の差だろうか。だからこれは今こそ見るべき映画かもしれない。
 2時間20分におよぶ映画は2部に分かれていて、前半はまさに映像詩という呼び方がふさわしい。猟師デルスとタイガの大自然との共鳴は、ドラマの域を超えて上質なドキュメンタリーの実在感を放っている。カメラも役者もみごとにシベリアにとけ込んでいる。この前半だけでもこの映画は見る価値がある。いや、前半だけの方が見る人は幸せかもしれない。
 後半になると一転、自然と対話する猟師は人間的なドラマに巻き込まれていく。いわば森の人の凋落の物語だ。メッセージ性の高い映画作りを好む黒澤としても後半に込めたものは大きかっただろう。ただ、慣れないロシアで作られたせいか、演技の作り込みは日本でほど緻密ではなく、確かに坦々と描かれたという印象は残る。しかしそれがこの映画に静かな感動と余韻をもたらしているという見方もできそうだ。シベリアの大自然と人に一歩もひけをとらない、黒澤明の膂力の大きさを知ることのできる名作だと思う。