秋詩二篇
○高屋途中
山雲 半ば駁して斜陽を漏らす
堠樹蕭條たり 十月の霜
野店 人を畱めて蕎麺を勸む
一籃の銀縷 甑を出でて香ばし
菅茶山の黄葉夕陽村舎詩後編巻之二から。神辺から広島の東に位置する高屋町に向かう途中の晩秋の山陽道の情景だろう。山をおおう雲はまだらに斜陽をもらすばかりで、一里塚の木は霜にあってほとんど葉を落としてしまっている。そんな寂しい街道風景で、一際にぎやかなのが旅人に新蕎麦を勧める茶店の声。思わず応じると湯でたての一笊がなんとも芳しい。
そういえば、この秋は越前大野と東京上野で評判の蕎麦を食ったけれど、薄緑をした新蕎麦の香りというのはまだ知らない。茶山翁の好物だったのだろうか。
○西村即目
已に收む 黄柿と青梨と
復た山禽の抵死して窺う無し
彎き得たり 竹弓滿月の如し
一蒭人はなお空枝を護る
藤井竹外の竹外二十八字詩から。収穫を終えた果樹園。もう必死に隙をうかがっている鳥たちもいないのに、竹弓を満月のように引き絞って、なお藁の人は空枝を守っている。
この詩には江馬天江の評語があり云わく、「蒭人、山禽を欺かんと欲し、反って山禽の笑ふ所となる。意想、人のごとからず」目のつけどころが俳諧的というべきか。弓引いて案山子が守る刈田かな