佐伯祐三展

 かたじけなくもタダ券をめぐまれて、大阪市立美術館の「佐伯祐三展」を見てきた。いつぞやの蕪村展以来、久しぶりにうろつく天王寺。高校の頃、よく旭屋書店にかよった阿倍野筋沿いの商店街では、広大な更地が出現して再開発が進行中。公園内の通路からは喧しかったゲリラ的カラオケ店がすっかり一掃されていた。
 で、展覧会はというは、ちょっとした衝撃だった。予想外にすばらしかったのである。実は恥ずかしながら、これまでまともに佐伯祐三を見たことがなかったので、感動も大きかった。思い切った言い方をすると、西洋の近代画家を見るのとまったく同じ目で鑑賞できる唯一の日本人画家が、佐伯祐三なのではないだろうか。自分にとっては、鐵齋に加えて二人目の世界レベルを感じさせる近代画家が佐伯祐三だった。
 ただし、その絵は悲しいほどに洋画だ。日本人が日本を描いた洋画ではなく、日本人がパリを描いた洋画。そのどこにも日本人らしさはない。ヴラマンクユトリロの影響を受けて、西洋近代画の流れに全身をささげた画家。そういう意味では鐵齋の対極に位置する存在。個人的には全面的には共感しにくいのだが、その絵の魅力、味わい、迫力はまぎれもない。前後2回、あわせて3年ほどの滞仏でここまで登り詰めたその才と没入は、見ていてこわいほどだった。