初冠雪


 寒いと思ったら、山は雪になっていた。朝方見たライブカメラ槍ヶ岳は薄く雪化粧している。9月に冠雪するのは数年ぶりだそう。山はこの時期、天気次第で一気に冬になる。
 山の初雪といえば、思い出すのは数年前の10月初旬、南アルプスの便ヶ島を起点に2泊で稜線を周回したときのこと。2日目の茶臼小屋を出発するとまもなく、白いベールが上河内岳の方向から近づいてきて、あたりはたちまち雪になった。二重山稜になった仁田池で小休止して、まだ黄葉の浅いダケカンバの林とその下に静まる水面に雪が舞うのを眺めた。南アルプスの稜線でそんな風に一人初雪を見ているのが、何とも不思議な気がしたものだ。
 けれど仁田岳を往復するころには、降雪はいよいよ本格的になり、鑑賞的な気分ばかりではいられなくなってきた。予定していた光岳はパスして、易老岳からの長い尾根を逃げるように下り、便ヶ島の管理人に上は雪だと言ったら驚いた顔をしていたっけ。立ち寄ったかぐらの湯の濃厚な泉質が冷えた体にありがたかった。
 午後遅く見ると、槍ヶ岳の雪はほとんど消えている。夜の雪は昼間雨に変わったようだ。山でも町でも初雪ははかないのだ。