虫声

 家の周りで虫の声が頻り。そういえば地獄谷温泉では途中の山道も部屋にいても、ずっと鈴虫の美音に取り巻かれていたものだ。あまりにおあつらえ向きにみごとなので、もしかしたら人が放したものかと宿の人に聞いてみたら、とんでもないということだった。考えたら自然の鈴虫を聴くのは初めてで、いっそう尊い思いがしたものだ。
 もちろん庭に鈴の音はなく、聞こえるのは名も知らない虫のすだきばかり。たぶん片手では足りない種類がいるが、聴いているとどれが突出するでもなくみごとに調和しながら、さまざまな音色とリズムで面白く鳴いている。秋の庭の響きは日本の在来の自然の多様性と調和そのものか。都会では街路樹を外来のアオマツムシが占領して、甲高い声一色で人を悩ませているらしいけれど。
 藤井竹外の「竹外二十八字詩」から、虫の音の詩。
 ○秋暁
 開花を點檢す 風露の邉
 牽牛は澹泊にして 玉簪は妍なり
 須臾にして月落ちて 中庭暗し
 ただ百蟲の聲 前に滿つる有り