翠雨軒詩話


 ようやく手に入れた地元旧山田村が生んだ幕末明治の漢詩人山田翠雨の版本。本命はもちろん漢詩集の「丹生樵歌」なのだが、これはたまに出てもなぜかバカ高い値がついていて、手が出ない。代わりにというわけではないが、翠雨のもう一つの出版物である「翠雨軒詩話」4巻を、こちらは十分リーズナブルな価格で入手。
 詩話といえば菊池五山の「五山堂詩話」が有名だが、あれは江戸漢詩文芸時評なのに対し、こちらは漢詩の特殊な詩語や用例を集めた用語辞典みたいなもの。辞典というほど堅苦しくなく、表記はカタカナ交じり文だし、時に著者の感想や経験談も混じるみたいだから、まあ詩語雑話といったところか。
 ところでこの本、初巻の見返しには「慶應二丙寅晩夏新刻」とあり、末巻の奥付には「文久二壬戊年九月新刻成」とある。前者は1866年、後者は1862年でとまどうところ。ならばと序文の日付けを見てみると、文久1年が二つとあとは慶應1年と2年、とこれもばらばら。でも著者の自序が文久1年だから、考えるに文久2年に初版が出て、慶應2年に再版された。その時に2本の序文を加えたということかな。いや、文久2年には版は成っていたけれど、時局柄伸び伸びになって4年後にようやく出た、ということも考えられる。どっちにしても幕府瓦解直前の出版だったわけだ。
『水寺 瀑寺
 仝人海村雜詩に、「水寺、晝、長なへに昬し」。水邉の寺なれば水烟が籠めて白昼までも鬱陶しきを云う。我が攝州布曳の瀑に蕭寺あり。人々、寺名を以て呼ばず、ただ瀑寺と稱す。西土また然ると見ゆ。甌北、棲賢寺瀑布の詩に、「開先、瀑寺の中。棲賢、瀑寺の外」の句あり。』