黒澤明の「白痴」

 ゆうべBS2でやっていた「白痴」は、完全にノーマークだったのだが、意外に面白い映画だった。(逆にその後期待して録画した成瀬巳喜男の「娘・妻・母」はそれほどでもなかったな)何が面白いかというと、とりあえずの感想なのだが、まずドストエフスキーの世界を日本にもってくるやり方が面白い。雪一色の北海道が舞台で、細部に日本の街のイメージを残しながら、雪のせいか、どことなく抽象感というか夢幻感が漂っていて、日本離れした観念的なドラマにけっこう合っていた。
 役者たちも熱演していた。ナスターシャならぬ那須妙子の原節子は、せりふ回しはともかく表情が凄い。久我美子の清純なお嬢さんフェイスも、それに引っ張られて複雑な表情を見せる。森雅之のムイシュキンはひたすら弱々しく病的。無垢さはあまり感じない。逆に三船はドストエフスキーにおなじみの野獣的人物だが、かえって弱さと無垢がほの見えるところが名優たる所以か。
 発見だったのが東山千栄子のリザヴェータ夫人。これもドストエフスキーにおなじみのお喋りで滑稽な、しかしどこか核心につながる狂言回し的夫人を好演している。「東京物語」の老いた母親のイメージと大違い。懐の深い役者だったんだなあ。
 出会い頭的に見た映画だったので、もう一度じっくり見てみたい。TSUTAYAに置いてるかな。