ケン・フォレット『大聖堂』

 久しぶりに出会った血湧き肉躍る物語。頽廃した修道院の復興をめざす修道院長と大聖堂の建設を夢見る石工を主役にした西洋版歴史大河ロマン。修道院を舞台にした小説といえば、『薔薇の名前』を思い出すが、あれは学者が高度な蘊蓄を傾け、想像的探求を逞しくした知の書なのに対して、これはあくまで職業作家がものしたエンターテインメント。それだけに、ヒーロー・ヒロインたちには不倶戴天の敵がいて、権謀術数あり、愛欲あり、スペクタクルシーンありとサービス満点。分厚い文庫の3冊本が、ページを繰る手ももどかしく読み進められる。まあ、サービスが濃厚過ぎて、ちょっと娘たちには奨めにくい部分もあるが。
 しばらく仕事が手すきで、テレビを消して毎夜たっぷり物語に浸る時間的・体力的余裕があるという向きにはおすすめ。ただし、寝る時間を削って読みふけってしまい、朝がつらくなるという心配は大いにある。矢野浩三郎のよくこなれた訳文も貢献度大。