林達夫メモ

『林さんが園芸好きになった理由は「家の付属としての庭を作る必要から」だったと「私の植物蒐集―〔実際園芸〕主幹に答へて」の中で記している。ご子息の杲之介氏から「私の家―日本古農家を古英国風田舎家に―林達夫」というコピーを送っていただいた。一九三八年五月号の婦人公論に寄稿されたもので、写真も掲載されている。たしか花田清輝がこの移築を「否定的媒介」の例証として挙げていたのを記憶しているが、実際林さんは古い農家を安い価額で買い取り、これを英国風の田舎家に改造したのである。「その(農家の―引用者)元のままの構成と古い巨材の〔味〕とを利用して、これを古英国風に改築することを最近試みた」と上掲の寄稿文に書いている。』田之倉稔著「林達夫・回想のイタリア旅行」
 最近読んだ林達夫のイタリア旅行を記録した本から。この文章によると、以前から興味のあった林達夫の庭は、家と統一的に構想されたものだったことが分かる。しかもその家は、古い農家を移築して英国風に改築したものだったというのだ。古民家の再利用は最近になってようやく始まった動きだが、はや戦前に林達夫は先鞭をつけていたわけだ。戦後の使い捨て住宅の乱造時代を間にはさんで、70年経ってようやく我々は林達夫の価値観が分かるところまで来たということか。それにしても、林達夫という人は、地球環境問題や共産主義の行方から家作りの考え方まで、何と予言的に透徹した知性の持ち主だったことだろう。
 「私の家」という文章は、調べてみたら平凡社の「林達夫セレクション」に入っているよう。さっそく読んでみなければ。