鏡花・山雀

 昨日のヤマガラ話の続き。社寺の縁日や祭りで山雀がおみくじを引いたり、輪くぐりをしたりするのに興じる、かつての日本人の姿を想像してふと思ったのが、泉鏡花もきっとこの可憐な見せ物が好きだったのではないかということ。いい加減な読者ゆえ、そんな場面を描いた作の記憶はないが、きっとどこかに山雀の話はあるはずと、鏡花の情報サイト[泉鏡花を読む]に設置された語彙検索システムで調べてみた。
 あった、「二、三羽――十二、三羽」という作品。小説ではなく小品として岩波版全集の第27巻に収められている。番町の家で親しんだ雀たちの話を中心にした、鏡花の小禽への親近のほどがうかがえる随筆で、そこに山雀の挿話が挟まる。残念ながら山雀の芸の話ではないが、狂言小舞謡にまつわるおおどかな昔話。

『 瓢箪に宿る山雀、と言う謡がある。雀は樋の中がすきらしい。五六羽、また、七八羽、横にずらりと並んで、顔を出して居るのが常である。
 或殿が領分巡回の途中、菊の咲いた百姓家に床几を据ゑると、背戸畑の梅の枝に、大な瓢箪が釣してある。梅見と言う時節でない。
「これよ、……あの、瓢箪は何に致すのじやな。」
 その農家の親仁が、
「へいへい、山雀の宿にござります。」
「ああ、風情なものじやの。」
 能の狂言の小舞の謡に、
 いたいけしたるものあり。張子の顔や、練稚児。しゆくしや結びに、ささ結び、やましな結びに風車。瓢箪に宿る山雀、胡桃にふける友鳥……
「いまはじめて相分つた。――些少じやが餌の料を取らせよう。」
 小春の麗な話がある。』