乾山展

 京都文化博物館で開かれている「乾山の芸術と光琳」展を見てきた。出光美術館・MOA美術館と開かれてきた巡回展のトリ。錦小路の駐車場にとめて、のんびり高倉通を北上すると煉瓦作りの建物が現われるのでこれかと思いきや、これは辰野金吾設計の旧日本銀行京都支店を保存した別館で、本館はその隣のモダンな建築。広過ぎず狭からずの展示室をめぐって乾山の焼き物を楽しんだ。'04年にあった滋賀のMIHO美術館での大規模な展覧会以来。規模はあの時の半分以下だが、感興は今回の方が上。あの時はどうだったか、よく覚えていないが、ガラスがなければほとんど息がかかるほどの位置に置かれた展示がありがたかった。
 乾山の焼き物が与える感興はほんとに比類のないものだ。絵付け自体が単なる器の飾りではなく絵画そのものだし、器の形と一体となって、いわば3次元の絵画芸術になっている。しかも具象的な山水から抽象的なデザインまでその絵は幅広く、多様な器の形がそれを完璧に受けとめる。絵が先にあったのか、形が先か、いや発想はつねに3次元で、絵は形に添い、形は絵に添うように作られているよう。たとえば吉野山文反鉢の上縁は夢のように花盛りの桜と一体化している。しかもこれが実用品で、掌に納め、唇を触れることができるという身体的な鑑賞法までが許される贅沢。乾山焼が売られていた18世紀初頭の京都は何という美の王城だったことだろう。
 溜息百斗で見て回り、分厚い図録もしっかり買ってから館を離れる。一筋東にイノダコーヒーがあるのでカタログを見つつ茶を飲もうと超久しぶりに行ってみると、何と行列が。あきらめて寺町通まで足を伸ばすが、ここはすっかり若者の町で落ち着く場所がない。そのまま錦市場で買い物をしつつ車に戻る。この年になると、京都は繁華街よりも普通の通りが面白い。
文化博物館別館
錦市場