吉田秀和『永遠の故郷 夜』


 今年おん年95の音楽評論の名匠からの贈り物。「すばる」に連載中の文章をまとめたもので、歌曲をめぐって詩と音楽の自在な鑑賞が展開される。原詩と楽譜を交えた精緻な吟味は例によって猫に小判だが、そうでなくても稀な高みに達した言葉と音の響きあいは、遠くからその境地をあこがれ仰ぐしかない。本書に続いて「薄明」「昼」「黄昏」の全4部冊になる計画とかで、美しい歌々をめぐる言葉の花束がこれからも届く。これぞ無上の楽しみ!

『では、改めて、こう問いただしてみよう。なぜ死への憧れを歌う音楽がかくも美しくありうるのか? 美しくなければならないのか?
 なぜならば、これが音楽だからである。死を目前にしても、音楽を創る人たちとは、死に至るまで、物狂わしいまでに美に憑かれた存在なのである。そうして、美は目標ではなく、副産物にほかならないのである。彼らは生き、働き、そうして死んだ。そのあとに「美」が残った。』「四つの最後の歌」