大窪詩佛

 ○江天暮雪
 雲脚 流れるが如く 風 威有り
 雪花撩亂 空に漫りに飛ぶ
 洲邉漁艇 重なって纜を添ひ
 江上人家 半ば扉を掩ふ
 歳月堂堂 水と同じく逝き
 老慵 事事 心と違う
 暮天 何ぞ用いん驢に跨がりて出づるを
 ただ待つ 前邨 酒を買ひて歸るを
 詩聖堂詩集三編から。大火で詩聖堂を失い、妻を亡くして、人生の黄昏を見つめる詩佛晩年の雪景吟。前半の叙景から流れこむ老いの嘆きが痛切。