菅 茶山

 ○冬日雜詩十首 其の八
 灣頭 宿鶩 人を警して鳴く
 夜杖 橋を過ぎて 戞 聲有り
 子月 郊村 寒未だ烈しからず
 冥行十里 詩盟に赴く
 黄葉夕陽村舎詩巻三から。冬日雜詩十首はこの季節の農村の景物を、詩人の日常を交えつつ描いた充実した七言絶句群。10の詩には、晩秋から冬に至る季節の深まりが順を追って表現されているよう。8番目のこの詩は、子月というから旧暦11月、ちょうど今時分か。詩人はアヒルの驚き騒ぐ声や、杖が木橋でことこと鳴る音を聞きながら、詩の集まりに向かう。音に注目することで、まだ寒風も吹雪もない静かな初冬の夜を表現している。冥行十里というのはずいぶん遠い感じがするが、中国の里程(1里=500m)に基づいた漢詩の常套的な表現ということだろう。