「運命を分けたザイル」


 BSJapanで標記の映画を途中から見始めたら目が離せなくなってしまった。実際にあった遭難をそっくり再現した、すさまじい山岳サバイバル映画。遭難の当事者がナレーションを務めているから、ドキュメンタリー映画だといってもいい。
 2人の若者が南米の高峰に未踏ルートから登頂し、下山途中に遭難する。一人が足を骨折し、無傷の一人がロープをつけたけが人を滑り降ろしながら、尺取り虫のような下山が続く。ところがけが人は断崖で宙づりになってしまい、下の様子が分らない状況で、足場の雪が次第に崩れるなか、確保に堪えかねたサポートの青年は、ついにザイルを切ってしまう。
 無傷の青年はそのままテントに戻る。もちろんパートナーの死を疑わず。彼の決断は果たして正しかったのか、ということで思わせぶりな邦題がついたのだろうが、この映画の核心は実はそこにはない。ザイルを切られて数10m落下した青年は、奈落のようなクレバスの途中でひっかかったまま生きていた。そこから始まる彼のサバイバルへの闘いこそが見どころだ。ちなみにこの映画、クレバスに飲み込まれた青年が後に書いたベストセラーノンフィクションが原作だというから、当然そういうことになる。
 この先はあまり具体的に書かない方がいいのだろうけど、激しい恐怖に堪えながらクレバスの底に降りて出口を求め、骨折の痛みにのたうちつつ氷河や岩礫の斜面をじりじり下る彼の生への執念には驚嘆させられる。もちろんきれいごとではなく、最後はボロボロになり、泥水を啜り、錯乱しつつそれでもテントの近くまで這いずり降りる。すさまじい再現映像に当事者がつける冷静なナレーションが、この映画のリアルな手応えをいっそう増している。こうした半映画のスタイルを選んだ監督ケヴィン・マクドナルドの手柄だろうな。
 山に登る人もそうでない人も、レンタルショップで見かけたら即借りお勧めの1本。