菅 茶山・落木

 ○冬日雜詩十首 其の三
 夜山 幽寂たり 読書の堂
 寒うして衾裯を襲ねて霜有るを覺ゆ
 枕を欹てて耿然として落木を聽く
 半櫳の斜月 暁蒼蒼
 「黄葉夕陽村舎詩」三巻から。タイトルは冬日雑詩だが、布団を重ねて初霜を知るというんだから、このごろか、もう少し遅い、まあ晩秋・初冬の詩。また「落木」は漢和辞典には「葉の落ち尽くした木」とあるが、「落木を聴く」というのだから、落ち葉のことだろうか。そういえば、杜甫の有名な詩「登高」にも「無辺の落木は蕭々として下ち」とあって、やはり落ち葉のこと。個人的には、落木という文字面から思い浮かぶのは、風の強い日に冬枯れのブナの尾根を歩いていて、新陳代謝で枯れた枝先が、枯れ葉の上に音をたてて降ったりする、そんな寂寞たる光景なのだが、もちろん漢詩で言うのはそんな特別な現象ではないだろう。4つの句は時間を追って書かれている感じで、半開きの窓から月の光が蒼々と射し入る、という暁の情景で見事にシメている。