鉄斎美術館

 久しぶりに清荒神に立ち寄る。鐵齋詣でも、最近、マンネリ気味。鉄斎美術館の蔵品を全部見尽くしたというわけはないはずだが、展示される作品が限られているのか、このところ新しい出会いはほとんどなくなったように思う。もちろん何度見ても傑作は傑作なのだが、感受の鮮烈さは次第に失われる。今回も最晩年の至高の作「瀛洲仙境図」に何度目かの拝謁がかなったのだが、そのソフィスティケートされたタッチの楽しみを再確認したものの、近代西洋画の傑作に肩を並べるこんな絵が日本でも描かれていたことを、最初に知った時の感動はもう戻らない。慣れて鈍麻する、人間の性の悲しさ。逆にこれまで素通りしていたさほど知られてはいない絵に、心引かれる部分を見つけてしまったりするから面白い。たとえば、この虎にまたがる羅漢さんは、70歳代の「慈能制猛図」の一部。とぼけた表情が面白いし、虎の姿も憎めない。鐵齋の絵にはこういう味のあるキャラクターが頻繁に登場する。鐵齋の人間としての幅、画技の融通無下さが、巧まざるユーモアとなって、古くさい題材を楽しめるものにしている。気に入ったので、手もとにあった白黒画像から、虎と羅漢さんを切り抜いてみた次第。
慈よく猛を制す〜