荒れ庭・鏡花

 庭は今、混沌の極み。暑いのと蚊がたまらんのとで、ずいぶん長く手入れを放棄しているうえ、軒並み宿根草の株が古くなって、散漫に弱々しく伸びた茎が倒れ伏して、さながら浅茅ヶ原。そういえば、泉鏡花に「淺茅生」という小説があって、乱れた庭を身重の美女が歩く。

『ほつれた圓髷に、黄金の平打の簪を、照々と左插。くツきりとした頸脚を長く此方へ見せた後姿で、遣水のちよろ/\と燈影に搖れて走る縁を、すら/\と薄彩に刺繍の、數奇づくりの淺茅生の草を分けつゝ歩行ふ、素足の褄はづれにちらめくのが。白々と露に輕く……柳の絮の散る風情。』
 この美女はその後不運にも魔性の僧に取り殺されるのだが、それを知らない隣家の画家が、無住のはずの二階に舞い戻った美女の霊からその顛末を聞くという話。筋だけ見ればまさにホラーなのだが、蒸し暑く草深い晩夏の夜を描く鏡花の描写が、この短編に雨月物語のような味わいを与えている。
 で、我が庭にも鏡花の淺茅生の風情をと思いついて、夜、三脚を立ててバルブ撮影をやってみたのがこれ。淺茅生というよりも、八重葎の荒れ野。これでは幽霊も嫌がって現われまいて。