クラウディオ・アラウ『シューベルト・ピアノソナタ第19・21番』


 クラシック好きといっても、散漫で非系統的な聴き方しかしてこなかったせいで、この年になっても新しい曲との出会いがあるのは、かえって幸いというべきだろうか。言うも恥ずかしいのだが、このところシューベルトの後期ピアノソナタを“発見”して、こればかり聴いている。ピアノソナタといえば、これまでの所、唯一ベートーヴェンの後期ソナタ群だった所に、それに劣らない魅力を放ってシューベルトが加わった。ベートーヴェンとはまったく性格の違う音楽で以て。
 ひと言でいうとロマンチックな音楽。しかし後のロマン派のようにスタイルとしてのロマンチックではなく、自然な心の発露としてのロマンチックと感じる。メロディが深々と美しく、滑らかに流れて、何度聴いても飽きないのだ。極度の集中を求めるベートーヴェンの後期ソナタと違い、カーステレオで騒音のなかに仄聞こえるメロディを聴いているのも気持ちいい、という点も嬉しい。
 さて、アラウのCDは、ぽつぽつ買っている同曲群の最新の一枚。これまで聴いたシフ・内田光子ポリーニとは一線を画す演奏。重厚で飾り気なく、内省的。老ピアニストが噛みしめるように美しいメロディを弾く。癖があるが、もしかしたら最愛の一枚になるかもしれない。気に入ったので20番の入ったCDも注文してしまう。どちらも廉価版で大助かり。