エゴノキ

 庭のエゴノキが咲いている。この木の良さを知ったのは、庭木としてではなく山の木として。六甲の徳川道には何本かこの木があって、ある年、素晴らしい満開の時に行き合った。枝全体に清楚な花が下向きに咲いて、見上げたときの清々しさは深山のシロヤシオに負けないほどだった。その花に虫が集って、木全体が羽音のうなりに包まれていたのも、辺りにただよう甘い花の香りとともに印象に残った。
 庭の生け垣を取っ払って代わりに好きな木を植えることにした時、当然その一本にエゴノキを選んだ。六甲のエゴノキはその後何度か花を見ても、あれほどみごとな開花には出会わなかったので、花の着きにくい木なのだろうと、そして庭で咲くようになるには時間がかかるだろうと思っていた。けど、予想に反して植えた苗木は小さなうちから毎年よく花を着けた。3mほどの高さになった今は、まだ半人前とはいえ漂う香りと呼び寄せる虫の羽音は、もう山の木を思わせる。あと数年たってボリュームが十分になったら、部屋からも清々しい色香が楽しめるに違いない。