フランス・ブリュッヘン

 NHK-Eチャンネルでブリュッヘン18世紀オーケストラの演奏会を見る。ベートーヴェン交響曲1・3・8・5番を一気に。普通のオーケストラでは大変ヘビーなメニューだが、朴訥で直球勝負でけれん味のない古楽オーケストラでは、最後まですっきり聴ける。小編成のせいか、ちょっと物足りない感じもあったが、こんなベートーヴェンもありかな。
 曲間のインタビューでブリュッヘンが面白いことを言っていた。18世紀オーケストラのメンバーがコンサートツアーに子どもを伴っているという紹介があって、インタビュアーが子どもがいると音楽も違ってくるのではと尋ねたのに、ブリュッヘンは言下に否定して、音楽は抽象的なもので、いわばチェスの勝負みたいなもので、日常的な感情が入り込む余地はない、というようなことを答えていたのだ。
 なるほどねと思った。音楽演奏だけでなく、創作活動全般にこれは通じる言葉じゃなかろうか。芸術というのは出来上がりの美しさに、プロセスにも美しい動機や感情ばかりを想像しがちだが、実は戦術・戦略を駆使した戦いの部分が多くを占める。もちろん天才の手際というものがあるにしても、モーツァルトにしてもベートーヴェンにしても、鍵盤を叩きつけ、髪を掻きむしりながら、苦しい戦いを積み重ねてあの高みに至った。
 凡夫非才が楽しんで楽にいいものを作ろうなんていうのはしょせん無理な話だよな。