ウェブサイトの基盤

 久しぶりにのぞいた[作家・秦恒平の文学と生活]が大変なことになっている。たぶん日本で唯一、ネットに本格的に軸足を置いて発信を行っているプロ作家で、特に「生活と意見」と題する日記は、読者の反応などを取り込みつつ、毎日精力的に更新されている。その昨年9月以前のものが読めなくなっているのだ。
 更新情報を見てみると、

平成十八年九月二十日、突如、ホームページ「作家・秦恒平の文学と生活」が、…の申し入れを鵜呑みにしたBIGLOBEにより、全面削除され消滅し今日に及んでいる。仮処分申請により東京地裁の「審訊」が近く開かれる予定である。暴挙に、多くの人の憤慨と抗議と支援の声が届いている。ペンの電子メディア委員会もこれを議題として取り上げてくれる。
 とある。10月以降の日記を読んでみると、どうやら「骨肉の争い」と呼ぶべき陰々滅々たる事態が、この老作家に起こっているらしい。それについては軽々しく触れるべきではないのだろうが、1998年から日々書き継がれてきたという膨大な、そして多くの読者をもっていたに違いない日記が、一方的にネットから消滅させられた、というのはかなりショッキングだ。プロバイダーがどんな判断に基づいて、またどんな規約に基づいて、具体的にどんな手続きを経て削除を行ったのか、そしてそれは法的に妥当だったのかを知りたいところだ。
 データ自体は、プロバイダーにも著者のもとにも残っているはずだから、なりゆきによっては日記が復活することもあるのだろうが、社会的に一つの作品として認知されたページでさえ、こんなもろい基盤しかもっていないというのは、大いに問題を感じる。もちろん、プライバシーの侵害や誹謗・中傷などの人の不利益になるような記述は、ネット上でもきびしく監視されるべきなのだろうけど、その吟味は法的に厳密でなくてはならない。一企業が独断で全面削除できるほど、もはやウェブサイトの存在意義は小さくはないはず。プロバイダーには言論や著作のインフラとしての自覚をもっとしっかり持ってもらいたいものだ。