『青年の環』

 丸谷才一トリオからあっさり切り捨てられていた野間宏の長大な小説『青年の環』。'83〜'84年に岩波文庫が、同文庫史上最大のボリュームを甘受して、5巻本を出したのは大英断だと思ったものだが、もちろんその後長く品切れ状態が続いていた。第1次戦後派への関心の現状からすれば、もう書店に再出現することはないだろうと思っていたのだが、調べてみると、なんと一昨年に重版されているではないか。今、Amazonでも新本が買える。初版の850円が1470円にアップして、5冊で7350円也。5冊を積み上げた厚みは17.5センチに達する。もし万一読んでみようというチャレンジングな人がいたら、一度に5冊買うなんていう無謀なことはせず、まず本屋で立ち読みしてみられることお勧めする。そしてその、長い長いセンテンス、果てしない叙述と時にディープな大阪弁による会話の、大河の如き、長周波地震動の如きリズムにゆったりと乗って読み続けることが可能かをチェックされることをお勧めする。加えて、最近の文庫本の半分程度の大きさの文字に目が耐えられるかも。もし万一それらがクリアできれば、この5冊は日本の小説に類のない楽しみと昂揚をあなたに与えてくれるはず。たぶん。
幅をきかせる大冊