YouTube・内田光子

 内田光子の弾き振りによるモーツァルト20番コンチェルトYouTubeでこんなものまで見れるようになるとはなあ。これって、これまでの常識では明らかに法に抵触しているんだろうが、こういう人を楽しませ、時には勇気づける影像を、いつでも見たい時に見られるという状況が、果たして完全に否定すべきものと言えるんだろうか、という気がしなくもない。むしろ著作権の名のもとに、限られた放映だけに限定してコンテンツを死蔵しているという状況の方が、万人の受けるべき幸を奪っていると言えなくもないような。もちろん、音楽を作った人、影像を作った人の当然受け取るべき利益がそれによって損なわれるようなことがあってはならないし、これがそのケースに当たらないかどうかは判然としないわけだが。ともかくYouTubeがどこまで著作権に関わる法的常識に影響を与え、それを変えていくことができるか、これからが見物ではある。
 ところで、内田光子は今や日本を代表するピアニストであるどころか、現代のモーツァルト弾き、シューベルト弾きの第一人者と言ってもいいような存在なのだが、この弾き振りの影像の印象の強烈なことはどうだろう。黒髪を振り乱し、両手をハンドパワーよろしく振りかざし、ほとんど妖気漂う表情でオーケストラをリードする姿は、まるで音楽の巫女じゃないか。そしてその姿態と演奏の全体が聴衆を巻き込んで盛り上がっていく様が素晴らしい。まさに気合勝ち。音楽への情熱の勝利。近年ヨーロッパでは日本人演奏家が退潮ぎみだそうだが、内田光子がいてくれてよかったと思うのだ。