佐藤春夫集

 川本三郎を読んだせいで、佐藤春夫をまとめて読みたくなる。こんな時に便利なのが、日本文学全集といった類の作家別選集。さっそく[日本の古本屋]で「佐藤春夫集」と検索してみると、あるある、主要な出版社がかつて出していた選集本がずらり引っかかってくる。
 新潮社の日本文学全集、講談社の日本現代文学全集、中央公論社の日本の文学、集英社の日本文学全集、筑摩書房現代日本文学大系…、より取り見取りで値段も数百円から高くても千円と手頃。どれもボリュームたっぷりで、たぶん2段組の小さな活字でしっかり作品を詰め込んでいるはずだ。ちょっと目がつらいけれど、作家の代表作をまとめて読むには最適。一番安い500円のものを注文する。
 それにしても、これらは60〜70年代に各社が競って出したものだが、そんな時代がまた戻ってくることがあるのだろうか。今では図書館か学校にしか置かれないだろう文学全集というものが、当時は家庭の本棚に並んでいたわけで、文学が一般教養だった時代がこの国にあったことを、この膨大な聖典めいた遺物たちは物語っている。そして、そんな時代に自己形成をしてしまった文学青年の成れの果ては、いまだに小説や詩に恋々としつつ、中途半端な社会生活を送っているわけだ。