『ベニスに死す』

 フィガロを飲みつつ、BSで『ベニスに死す』を見る。大学生のころはマーラーのアダージェットに引かれて名画座に見に行ったものだが、今見ると、録音の悪いアダージェットが少々くどく使われている。しかし、映画そのものは耽美と頽廃の極致。白塗りの道化のようになった主人公が、最後に見る美少年タジオの海辺の影像の美しさ。心のどこかで嫌悪しつつも、ヴィスコンティの影像に酔わされていく。最初と最後だけは、アダージェットが不可欠。
 ところで、主人公にとって小悪魔のような美少年を演じたビョルン・アンドルセンは、今どうしているのだろうとネットを調べてみて、こんなページを発見。インターネットはすべてをあばいてしまう。映画は現実から超然として輝いているのではあるけれど、作品のあまりの完成度に押しつぶされていく人生もあるということだろうか。