『プライドと偏見』

 最近珍しく感情移入して見たDVD。原作は1813年に出版されたイギリスの女流作家ジェイン・オースティンの古典的恋愛小説。ユニークな個性をもった魅力的な男女が、互いに反発しながら次第に惹かれていき、ハッピーエンドにいたる典型的なストーリーだが、それだけにいつの時代も人を引きつける名作。中野好夫訳の新潮文庫を引っ張りだして確認してみると、上下二冊が男女とその周辺の人々の会話であふれている。乾いた、時に辛辣な客観描写と饒舌な会話のなかから、心理の微妙な移り行きと昂揚を、精密に理詰めに描いているところが、雰囲気中心の日本の恋愛小説と違って面白かったという印象がよみがえる。
 で、映画の話。こちらの方はもちろんかなり要約された内容になっていて、原作の精妙な心理ドラマの面白さに欠けるのはいたしかたないところだが、男女の会話と感情が火花を散らす筋立ての勘所はちゃんと押さえられていて、よくできたダイジェストになっている。しかし何よりも、この映画を魅力的なものにし、感情移入しやすいものにしているのは、主人公エリザベスを演じるキーラ・ナイトレイの美しさと彼女が作るキャラクターの魅力。イギリスの古い荘園の暗鬱な色調と重厚な建造物の陰影のなかでも、彼女の一種ドラマチックな美しさは際立っているし、その目まぐるしく変わる魅力的な表情は目を引きつけてやまない。敢えて言うならば、これはキーラ・ナイトレイに酔うための映画であろう。