玉堂断片

 玉堂の絵には人をうっとりさせる部分がほとんどない。たとえば、峰は靉靆たる霞の上にわずかに姿を見せ、麓の村落や林も眠るように霞のなかに見え隠れする。そんな我々の記憶に染みついている心落ち着く山水が描かれることはほとんどない。ただし、わずかな例外の一つがこの「山雨染衣図」。この絵は、今回の岡山展のリーフレットに使われていたことを見ても分かるように、だれにも好まれる分かりやすい玉堂画の最右翼だろう。だが、この絵は玉堂の典型ではない。むしろ例外だ。だからこの絵をリーフレットに使ったことには疑問符がつく。玉堂はそもそも好もしい山水を描くことは眼中になかったようだ。人がその中に心を遊ばせることのできる風景を再現することなど鼻から考えていなかったに違いない。玉堂は絵で何をしようとしていたのだろうか。
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