氷ノ山


 2005年に匹敵する豪雪の年になるのではないかと思われた1・2月の寒さと降雪の後、3月は一転して温かく雨勝ちな気候となってしまいました。ぐずついた週末が多く、雑事も加わって、どんどん融けていくだろう雪を心配しながら、指をくわえて山を思う日々が続きました。

 この週末も北は荒れ模様。3月も終盤だというのに、氷ノ山へは途中敗退の戸倉コース一度のみ。かくてはならじと、晴れマークのついた木曜に、シーズン後半定番の横行コースへ出かけました。

 横行林道の除雪は例年通り山小屋のある橋の手前まで。その先は去年をはるかに凌ぐ深い雪におおわれていました。1時間ほど行ったところで、朝早く出たらしい山スキーヤーが気持ちよさそうに林道を飛ばしてきました。そのトレースを追って分岐からは三ツ滝方向へ。

 去年初めて歩いた三ツ滝からの源流ルートですが、滝を右岸から恐々トラバースして越すと、広々した谷が広がり、手つかずのブナの原生林のなかを気持ちのいい登りが続きます。このルートを知ってしまうと、わざわざ大段ヶ平まで遠回りして登る理由はなくなってしまいますが、流れが現われ始めるまでの期間限定ルートでしょう。

 去年は先行のトレースを追って、最後の二股から右股の左岸尾根を登って山頂に続く大雪原に出ましたが、今回はさきほどのスキーヤーが左股の谷をあくまで詰めているのに従って、この谷が発する氷ノ山と二ノ丸の鞍部をめざします。稜線が近づくと、いつの間にか雲に閉ざされた空から冷たい風が吹き下ろし、雪面が固くなってきました。

 もう十分に空腹で、山頂を後回しに、稜線の下で風を避けつつ、急いで昼食とします。気温も下がっているようで指が凍えます。食後は山頂へ一登りのつもりでしたが、もうそんな気もなくなり、そそくさとシールを剥がして退散。といっても、ガリガリになった雪面はへっぴり腰スキーでは手に負えず、先行者のシャープなシュプールを横目に、急な斜面は横滑りでそろそろと源流へ下ります。

 しばらく下って雪が柔らかくなると、スキーを回すのが楽しくなります。滝が近づくと右岸斜面に移り、急斜面を雪を切ってトラバースしていきます。スノーシューでは足を置くのも大変な斜度でも、スキーの金属エッジならしっかり食い込んで安心して進めます。

 林道に出ると、後は傾斜にまかせてのんびり滑って駐車地へ。時期的に最初で最後かと思って入った横行コースですが、この雪の量なら4月半ばまで楽しめそう。もう二、三度は遊ばせてもらたいものだと、気分よく横行渓谷を後にしました。


戸倉峠から三ノ丸、途中まで


 日曜は今季初めて山スキーを履いて、この時期定番の県境尾根ルートへ。入山口の戸倉トンネル東口には背丈をはるかに越す雪の壁ができています。林道も目覚ましい積雪深で、旧隧道から古い峠道に入る所では、トンネルの間際まで進んで少しだけ登って峠道に入るという、これまで見たことのないルート取りでラッセル跡が続いていて驚きました。トンネル道が数メートル嵩上げされてしまった感じです。

 峠の先までは先行者二人のスノーシューラッセルに助けられましたが、それを外れると一気にペースダウン。ぽくぽく林道を辿り、十分過ぎる雪に埋まったいつもの谷を登って、県境尾根に乗った時には既に正午を過ぎ、時間切れ敗退確実になっていました。

 驚いたことに県境尾根にはスノーシュー二人組のラッセルがまだ続いています。そのパワーに引っ張られるように1時間ほど旧三ノ丸あたりまで進んでみましたが、シャリばてダウン。空からか枝からか細かい雪が降りしきる下に座り込んでお粥を煮ながら、この冬の厳しさを噛みしめました。上部の雄偉なブナ林との再会はまた今度。今回は雪をたっぷりまとった植林杉がいい表情を見せていました。


明神平


 28日は1年ぶりに明神平へ。今年の登山道の雪は深く、途中から早々とスノーシューをつけてガスと寒風の平に登り上げました。そのまま前山の大斜面をめざすと、霧氷を全身にまとったブナが次々にガスの中から立ち現われて、夢幻の世界をさまよっているような感覚にとらわれます。快晴の日の明神平は、青空に純白の霧氷が輝き、登山者に至福の時間を与えてくれますが、こんな天候の日の明神平にも得難い喜びがあります。自分の存在が風景に溶け込んでしまうような、大袈裟にいえば究極の「心物一如」の感覚と言えばいいでしょうか。

 もっとも、心は風景に溶け込んでいても、身体はそこにあって凍え切っていますから、さすがに今日の昼食は、ツェルトを張ってその中にもぐり込んで摂ることに。風の音を聞きながら湯を沸かしていると、ようやく指先に感覚が戻ってきました。食後は気合を入れ直して寒風の稜線に上り、三塚分岐から右に振りつつブナの尾根をゆっくり下っていきます。右手には奥山谷源頭の谷をはさんで、ガスの中にブナの古木林がまるで太古の風景さながらに見え隠れしていますが、今日はさすがにそこまで足を伸ばす気になれません。こちらの尾根にもブナ・ミズナラの古木が多く、霧氷の衣で一層迫力を増した幹々の間、繊細な純白の天蓋を広げる枝々の下を、スノーシューに乗って夢見るように下って行きます。こんな時間があるから、厳冬の明神平には毎年一度は訪れずにいられません。

 心当てに下り着いた明神平の水場の谷は、あれ、少し印象が変わっています。よく見ると、雪の下にはかなりの数の倒木が横たわっている様子。昨秋の台風の爪痕でしょうか、古木が倒されて空が大きく開けている場所があります。この後、この気持ちのいい谷がどう変わっていくのか、少し心配しつつ明神平に登り返し、帰路につきました。



赤谷山


 新年8日は4月に足を痛めて以来、初めての本格登山に。戸倉峠からはノートレースのきついスノーシューラッセルが続きましたが、気がかりだった体力は怪我前と変わらない感じで大いに安心しました。十数年間山に登り続けてきた体は、これくらいのブランクでは弱らないようですね。ただ、最近の腹のだぶつき具合はかなり悲惨です。

 また、骨折に加えて捻挫を被った右足には、できれば正座は避けたいといった程度の鈍痛と不自由が今も残りますが、ふかふかの新雪クッションのおかげでほとんど不具合を感じることもなく、雪山がリハビリに最適のフィールドであることを実感しました。山スキーでもこうだといいのですが。

 去年初めて訪れて気に入ったこのコース、稜線にブナの大木が豊富で、終始楽しく歩くことができます。最高点の赤谷山を通りすぎ、地図で目をつけていたピークまで足を伸ばして、ブナの大木の下で昼食を摂りました。この季節らしい純粋苛烈な風景のなかで過ごす一時は、2年続けて喪に服するという人事のやる方ない不安定感を、少し遠ざけてくれたようです。

 下りは戸倉トンネル手前の駐車スペースに直接下降する尾根を試してみましたが、新雪の下りには傾斜が適度で、意外に自然林も残り、正解のルートだったと思います。ただ、最後の最後でかなりの急斜面に出くわし、念のためにスノーシューを外して、壺足で雪まみれになって駐車地に降り立ち、そり遊びをしていた親子連れを驚かせたのは玉に疵でした。慎重に行けばもっと楽な傾斜が選べたかもしれません。

奈良の裏道

その一 南大門と若草山を望む道

 県庁横の駐車場を北側から出て、すぐに交差点を渡った所から、土塀に囲まれたいい道が伸びています。正面には明るい若草山をバックに東大寺南大門の真横から見た見慣れない姿。人通りも車も少ない、お勧めの裏参道です。

その二 戒壇院への道

 上記の道を進むと寧良美術館の門に突き当たりますので左し、しばらく進むと正面に見えてくるのが四天王像で知られる戒壇院。正門まで駆け上がっている古びた石階が、この整った構図にさらに生彩を添えています。両側には趣のある邸宅が続きますが、その一つに入江泰吉の旧居も。奈良の写真を撮る人にとっては、この道は新しい聖地かもしれないですね。うるさい電信柱と電線が残念。

パラダイス

 実家への途次、富田林のみかん園に寄ると、そこはパラダイスと呼びたくなる面白い場所でした。といっても、そのままの意味でのパラダイスではなく、ウィキペディアの定義の最後にもある『「探偵!ナイトスクープ」で紹介された(されるような)集客のなさそうなスポット、珍名所』の謂い。

 ただ、ここはみかん狩り・栗拾い・イモ掘りという実利的な呼び物があるので、集客はかなりありそうで、遊具やザリガニ釣りで遊ぶ子ども連れやバーベキューを楽しむ若者グループの姿が、寒くなった今も見られます。

 けど、そこはやはりパラダイス。上の写真のほとんど偏執的なメッセージボードの数をご覧いただいても、園主が濃厚な思い入れとDIY精神を貫いて構築・運営している特異な施設であることがお分かりいただけるのではないかと思います。

 それはともかく、家族4人、バーベキューで腹を膨らし、営業最終日とかで残り少なくなった蜜柑を狩り集めて、十分に楽しんで山を降りました。下り道からは、秋色の丘陵地の向うにわがふるさとの山金剛山の立派な姿も。

 ちなみに左の邪魔な建物は、南河内清掃施設組合第1清掃工場という曖昧な名前のゴミ焼却場。気になって調べてみると、古い基準で作られた施設らしく、EU基準の数倍というけっこうなダイオキシンを出しています。果樹栽培が盛んな土地にあるべき施設とは思えません。

立杭

 今が盛りの雑木の黄葉を楽しみながら、丹波立杭に出掛けてみました。この辺りの田園を彩るこなら・くぬぎの黄葉は、かえで・もみじの華やかさはありませんが、温かく豊穣な感じがして好きです。それに、茶色といっても黄色に近いものから赤っぽいものまで、樹種・個体によってけっこうバリエーションがあって、眼を楽しませてくれます。

 陶の郷の直売場をのぞいたら、だんだん世代交代してるのか、以前よりモダンで凝った器が増えたように感じました。けど、やっぱり伝統的な丹波焼の肌合いの方がいいなあ。灰かぶりの感じいい花入れの小壺が目を引いたのですが、ちと高過ぎました。